親が認知症でも実家は売却できる?本人の意思確認と成年後見の進め方
2026/07/31
親が認知症になり、施設費や空き家の管理負担を考えて実家を売りたいと思っても、家族だけの判断で親名義の家を売却することはできません。
一方で、認知症という診断名だけを理由に「必ず売れない」と決めるのも適切ではありません。
最初に確認するのは、実家の名義、本人が売却の内容と結果を理解できる状態か、家族や支援者に有効な代理権があるかの三点です。
本人の判断能力が不十分な場合は成年後見制度を検討し、実家が本人の居住用不動産に当たるときは、後見人等が売却する場合でも家庭裁判所の事前許可が必要です。
この記事では、法律判断を不動産会社だけに任せたり、物件査定を後回しにしたりせず、法律・福祉・不動産の確認を安全に並行する手順を解説します。
最初に名義と本人の意思能力を分けて確認する
親の実家を売却できるかは、認知症という診断名だけでは決まりません。
売主となる所有者は誰か、売却する時点で本人が取引の意味を理解できるか、代理で進める場合の権限があるかを一つずつ確認します。
認知症の診断だけで売却可否は決まらない
e-Gov法令検索の民法第3条の2は、法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかった場合、その法律行為は無効と定めています。
不動産売却では、価格、引渡し、契約上の責任などを理解して意思を示す必要があります。
ただし、認知症の診断を受けていることと、特定の売却について意思能力がないことは同じ意味ではありません。
症状や理解の程度は人によって異なり、売却の時点で個別に確認されます。
家族だけで「大丈夫そう」「もう無理」と結論を出さず、まず本人が自分の言葉で、どの家を、なぜ、どのような条件で売るのかを理解しているかを丁寧に確かめます。
不動産会社、司法書士など取引に関わる専門家へ早い段階で状況を共有し、必要に応じて医療・法律の専門家による確認へつなげてください。
家族であっても本人の権限を自動では持たない
実家の登記名義が親であれば、子どもや配偶者という理由だけで売却権限を持つわけではありません。
家族が委任状を用意しても、委任する時点で本人が売却と代理の意味を理解できなければ、その書面だけで安全に進められるとは限りません。
まず登記事項証明書で単独名義か共有名義かを確認します。
共有名義なら、親の持分だけでなく他の共有者の意思も関係します。
過去に任意後見契約、家族信託、財産管理の委任などをしている場合も、契約書の名称だけで判断せず、不動産の処分権限が含まれるか、制度が有効に動いているかを専門家へ確認します。
確認前に媒介契約や売買契約を進めると、買主が見つかった後に手続きが止まるおそれがあります。
査定で物件の見込みを知ることと、誰が有効に売却できるかを確定することは別の作業として扱います。
状況別に売却へ進める道筋を選ぶ
初動では、本人の状態を家族の印象だけで段階分けするのではなく、確認できている事実から次の相談先を選びます。
次の表は売却可否を断定するものではなく、どの確認から始めるかを整理するためのものです。
本人が売却内容を理解できるなら通常の手続きを確認する
次の「実家売却の初動を決める三分岐表」で、現在地と最初の行動を確認します。
| 確認できている状態 | まだ確認すること | 次の安全な行動 |
|---|---|---|
| 本人が名義人で、売却理由・価格・引渡しを自分の言葉で説明できる | 取引時点の意思確認、共有者、必要書類 | 認知症の状況を隠さず、不動産会社と司法書士へ事前相談する |
| 本人の理解に不安があり、売却内容を十分に説明できない | 判断能力の程度、既存の支援制度、本人の生活費と住まい | 法律・福祉の相談窓口で成年後見等の必要性を確認する |
| 代理、任意後見、信託などの書面がある | 対象不動産、処分権限、発効条件、監督人や裁判所手続き | 原本を専門家へ示し、権限の範囲を確認してから査定・契約へ進む |
本人が取引内容を理解できる場合でも、売却中に状態が変化する可能性があります。
媒介契約、売買契約、決済・登記までの各段階で本人確認が行われることを見込み、最初の相談時に認知症の診断や支援状況を共有してください。
理解できる状態を家族が演出したり、本人に答えを覚えてもらったりするのではなく、本人の意思を尊重しながら取引関係者が確認できる時間と環境を整えます。
判断能力が不十分なら法定後見を検討する
裁判所の成年後見制度の案内では、判断能力の程度に応じて補助、保佐、後見の制度があると説明しています。
どの類型になるか、誰が後見人等に選ばれるかは、家族が自由に決めるものではなく家庭裁判所が判断します。
家族を候補者として挙げても、その人が必ず選任されるとは限りません。
また、成年後見は実家を一度売るためだけの代行手続きではありません。
同じ裁判所の案内は、申立てのきっかけとなった課題が解決した後も、本人の判断能力が回復するか本人が亡くなるまで手続きが続くとしています。
売却代金の管理、施設費や生活費の支払い、定期的な報告など、本人の財産と生活を継続して支える制度であることを理解して検討します。
「家を売りたいから後見を付ける」だけでなく、売却後の生活と財産管理まで含めて本人に必要かを整理してください。
既存の代理権や任意後見契約は範囲を確認する
親が判断能力の低下に備えて任意後見契約を結んでいた場合は、任意後見監督人が選任されて制度が開始しているか、契約に不動産処分の代理権が含まれるかを確認します。
単に公正証書や委任状が見つかっただけでは、現在の売却に使えると決められません。
家族信託や財産管理委任の契約がある場合も、対象財産、受託者・代理人の権限、本人のための使途、終了条件を原本で確認します。
本人の判断能力が低下した後に、新しい委任や信託を急いで作れば解決するとは限りません。
書面の日付や名称だけを見て不動産会社へ「代理できます」と伝えず、制度に詳しい弁護士・司法書士等へ原本を示してください。
権限の確認と並行して物件資料を集めることはできますが、売主や署名者を確定しないまま契約へ進まないことが停止線です。
成年後見を利用する売却の流れを把握する
成年後見等を利用すれば、どの不動産でも自由に売れるわけではありません。
本人の利益を守るため、申立て、後見人等の選任、売却の必要性の整理、必要な裁判所手続きを順番に進めます。
申立て前に本人の生活と財産の全体を整理する
申立てを検討するときは、実家だけでなく、本人の預貯金、収入、支出、負債、介護・医療費、現在の住まい、今後戻る可能性を整理します。
誰が申立人になれるか、どの家庭裁判所へ申し立てるか、診断書など何が必要かは、本人の住所地や状況によって確認します。
東京家庭裁判所の成年後見申立て案内には手引や書式が掲載されています。
書式を埋めることだけを目的にせず、本人の生活上どの支援が必要か、実家を維持した場合と売却した場合にどの負担が生じるかを記録します。
親族間で意見が異なる場合も、家族の都合ではなく本人の住まいと財産を中心に、賛否と理由を分けて整理してください。
分からない項目を推測で埋めず、裁判所の案内や地域の成年後見相談窓口へ確認します。
後見人等の選任後に不動産売却の必要性を説明する
後見人等が選任された後は、本人の財産管理を始め、実家を売却する必要性と条件を本人の利益から検討します。
施設費や生活費の見通し、空き家の維持費、修繕や管理の負担、本人が自宅へ戻る可能性、親族の意向などを資料で整理します。
売却価格の妥当性を検討するため、不動産会社の査定書、物件の状態、周辺の取引事例、想定される販売期間なども準備します。
査定額が高いことだけを理由に会社や方法を決めず、価格の根拠と売却条件を比較してください。
査定の種類や確認事項は、不動産査定の種類と流れで整理できます。
具体的な売却条件は個別に異なり、後見人等が本人の利益を踏まえて判断し、必要に応じて家庭裁判所へ資料を提出します。
家族が先に買主と条件を確定し、後から許可を得ればよいと決めつけないことが大切です。
居住用不動産は家庭裁判所の許可を得てから処分する
裁判所の居住用不動産処分許可の案内は、成年後見人、代理権を持つ保佐人・補助人が本人の居住用不動産を処分するには、家庭裁判所の許可が必要と説明しています。
居住用不動産には、本人が現在住んでいる家だけでなく、施設入所前に住んでいた家や、将来戻る可能性がある家も含まれます。
許可を得ない処分は無効とされるため、実家が空き家になっていることだけで許可不要とは判断できません。
申立てでは、売却の必要性、本人の生活状況、売却条件、代金の使い道などが検討されます。
申立書のひな型はありますが、裁判所が追加の資料や説明を求める場合もあります。
売出しや契約のどの段階で許可を申請するかは、後見人等と裁判所、取引の専門家で確認し、条件を先走らせないでください。
「施設にいるから居住用ではない」「本人のためだから必ず許可される」といった一律の結論は避けます。
不動産会社へ相談する前に事実を一枚にまとめる
法律関係が未確定でも、確認できている事実を整理すれば相談は始められます。
所有者・権限、物件、本人の生活と売却理由を一枚に分けて書き、法律・福祉・不動産の各専門家へ同じ前提を共有します。
所有者と権限の資料を先に集める
最初に、登記事項証明書、固定資産税の通知、権利証または登記識別情報、共有者の有無を確認します。
任意後見契約、信託契約、財産管理委任、既に始まっている法定後見等があれば、契約書や登記事項証明書、審判書など見つかった原本・写しを一覧にします。
診断名、診断時期、現在の生活場所、本人が自分で説明できること、家族が代わりに行っている手続きも、事実と家族の推測を分けて記録してください。
「認知症だから何もできない」「軽度だから問題ない」といった評価語だけでは、専門家も次の確認を選びにくくなります。
書類がすべて揃わなくても、あるもの・ないもの・確認中のものを区別すれば相談できます。
本人の印鑑や書類を家族が預かっている場合も、それだけで売却権限があることにはなりません。
物件資料と売却理由を本人の利益へ結び付ける
物件については、所在地、土地・建物の面積、築年、利用状況、住宅ローン、修繕履歴、境界、残置物、空き家管理の費用をまとめます。
古い実家の場合は、築年数だけで売れないと決めず、古い実家の状態と売却方法の確認項目も参考に、建物と土地を分けて現況を伝えます。
売却理由は「家族が管理できない」だけで終えず、本人の施設費・生活費、維持費、危険防止、戻る可能性、売却後の代金管理へつなげます。
希望価格を先に固定するより、複数の査定で根拠、想定期間、必要な修繕・測量、仲介と買取の違いを確認します。
一般的な手続きの順序は不動産売却の流れで把握できますが、成年後見等を利用する場合は通常の順序と追加手続きの関係を個別に確認してください。
不動産会社は物件の市場性と売却方法を説明できますが、成年後見の要否や代理権の有効性を単独で確定する役割ではありません。
法律・福祉・不動産の相談先を分けて動く
相談先を一か所に絞らず、何を確認するかで役割を分けます。
| 相談先 | 主に確認すること | 持参する情報 |
|---|---|---|
| 成年後見の地域窓口・法律専門家 | 制度の必要性、申立て、既存の代理権、利益相反 | 本人の状態、家族関係、契約書、財産と生活の概要 |
| 不動産会社 | 物件の現況、査定根拠、売却方法、想定期間 | 登記・面積・築年・修繕・利用状況、売却理由 |
| 家庭裁判所 | 成年後見等の申立て、居住用不動産処分許可の手続き | 裁判所が案内する書式と添付資料 |
葛飾区では、葛飾区公式の権利擁護・成年後見制度案内が葛飾区成年後見センターの相談事業を紹介しています。
江戸川区では、江戸川区社会福祉協議会・安心生活センターの成年後見制度利用相談が案内されています。
制度、費用助成、予約方法、対象者などは更新されることがあるため、利用前に各公式ページの最新情報を確認してください。
不動産会社へは「認知症の親名義で、法的な権限は確認中」と伝え、査定と契約を分けて相談します。
法律相談では物件資料を示し、制度だけでなく売却の必要性と条件も説明できるようにします。
まとめ:三つを確認して次の一歩を決める
親が認知症のときの実家売却は、診断名から結論を出すのではなく、名義、意思能力、代理権の三つを確認するところから始まります。
確認できた範囲を記録し、本人の生活と財産を中心に次の相談先を選びます。
名義・意思能力・代理権を確認する
「検索を止める六つの確認」は次のとおりです。
- 登記事項証明書で所有者と共有者を確認した。
- 本人が売却理由、対象不動産、価格と引渡しの意味を自分の言葉で理解できるか、家族だけで断定せず専門家へ共有する準備をした。
- 委任、任意後見、信託、法定後見等の書面がある場合は、原本と権限の範囲を確認する先を決めた。
- 本人の生活費、住まい、実家へ戻る可能性、売却代金の管理を一枚に整理した。
- 物件の査定に必要な登記、面積、築年、修繕、利用状況を整理した。
- 法律・福祉・不動産のうち、最初に連絡する相談先を一つ決めた。
六つが揃ったら、「認知症でも売れるか」という同じ検索を続けるより、確認先へ資料を持って相談する段階です。
本人が理解できるなら通常取引の意思確認へ進み、理解に不安があるなら成年後見等の必要性を確認し、既存の代理関係があるなら権限の範囲を先に確かめます。
居住用不動産に当たる場合の家庭裁判所の許可を含め、個別手続きは必ず最新の公式案内と専門家の確認に従ってください。
確認できた範囲だけで相談を始める
すべてを家族だけで解決してから不動産会社へ行く必要はありません。
「名義は確認済み、本人の意思能力と代理権は確認中、施設費と空き家管理のため売却を検討している」のように、確定事項と未確認事項を分けて伝えれば相談を始められます。
不動産会社には物件と査定の確認、成年後見窓口や法律専門家には権限と制度の確認、家庭裁判所には必要な申立ての確認を行います。
本人の意向を置き去りにせず、家族の負担だけでも決めず、売却後の住まいと財産管理まで見通してください。
現在の安全な一歩は、登記事項証明書と手元の契約書を集め、本人の生活状況と売却理由を一枚にして、地域の成年後見相談窓口または法律専門家へ連絡することです。
その情報を不動産会社の査定へつなげることで、法的な権限と物件の売却条件を混同せずに進められます。
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